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横浜地方裁判所 昭和46年(ワ)358号 判決 1975年3月25日

甲・乙両事件原告(以下単に原告という。)

宗教法人孝道山本仏殿

右代表者

岡野正道

右訴訟代理人

村野信夫

甲事件被告(以下単に被告という。)

伊藤博

乙事件被告(以下単に被告という。)

小久保次輔

石井博

右三名訴訟代理人

桑名邦雄

主文

原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一、原告

「1被告伊藤は原告に対し一〇〇〇万円およびこれに対する甲事件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告小久保は原告に対し五〇〇万円およびこれに対する乙事件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 被告石井は原告に対し一四〇万円およびこれに対する乙事件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。 二、被告ら

主文同旨の判決。

第二  当事者双方の主張

一、請求原因

(一)  原告は、昭和四五年五月一日訴外大谷木子之作ほか一四名との間において、右訴外人らを売主、原告を買主とする、埼玉県入間郡毛呂山町大字旭台一四一番山林ほか七筆の土地の売買契約を締結した。

(二)  被告伊藤は、右売買契約締結に際し、右訴外人らから一〇〇〇万円を手数料名下に受取り、その中から被告小久保に五〇〇万円を、被告石井に一四〇万円をそれぞれ交付し、右被告両名はこれを受領した。

(三)  しかし、被告らの右金員受領には何ら法律上の原因がない。すなわち、

(1) 前記売買契約締結に際しては、原告の代理人中沢留蔵と仲介業者訴外扶桑実業株式会社(以下訴外扶桑実業という。)および訴外山田幸明との間において、売買契約は原告と前記売主との直接契約とし、仲介人などが中間的な掛値をしないこと仲介手数料は専ら買主たる原告において支払い、売主はこれを支払わない旨の合意がなされていたものであり、言いかえれば売主との仲介手数料契約が存在しないのに、被告伊藤が、訴外大谷木らの無知に乗じて手数料名下に支払いを受けたものであつて、法律上の原因のない不当な利得である。

(2) また、被告らは公認の宅地建物取引業者ではなく、正式の資格のない者が土地取引に関して手数料を請求することは法的に許されないから、それ故に不当な利得である。

(3) 仮に百歩譲つて被告らが何らかの理由によつて訴外大谷木らから手数料を請求できる場合があるとしても、本件取引について請求し得る手数料の額は、正規の宅地建物取引業者であつても二六四万七五〇〇円を限度とするから(宅地建物取引業法およびこれに基づく建設大臣告示参照)、この金額を超える部分は本来法的に許されない不当なものである。

しかし、本件においては、買主側の仲介人たる訴外扶桑実業らは、右公認手数料の範囲内で二〇〇万円の手数料を約定、受領しているのであるから、これとの均衡上売主側の仲介人がこれを超えて請求することは公平の原則に照らして不当であるというべきであり、いずれにしても被告らが一〇〇〇万円の手数料を利得するのは不当である。

(四)  したがつて、訴外大谷木らは被告らに対し不当利得返還請求権を有するところ、原告は昭和四五年八月二四日被告らに代り右訴外人らに対して一〇〇〇万円を全額立替弁済した。

(五)  そして、右訴外人らは、同人らが被告らに対して有する右不当利得返還請求権につき、原告が同人らに代位することを承諾し、同年一〇月二二日到達の内容証明郵便をもつて、被告伊藤に対して右代位の通知をした。

(六)  よつて原告は、右不当利得返還請求権の行使として、被告伊藤に対しては一〇〇〇万円、被告小久保に対しては五〇〇万円、被告石井に対しては一四〇万円およびこれらに対する各訴状送達の翌日から民法所定年五分の割合による利息金の支払を求める。

二、請求原因に対する答弁

請求原因(一)(二)の事実は認める。

同(三)(1)のうち、原告代理人中沢留蔵と訴外扶桑実業らとの間に原告主張のような合意が成立したことは不知、その余は争う。同(2)は争う。同(3)のうち、訴外扶桑実業らが二〇〇万円の手数料を受領したことは不知、その余は争う。

同(四)の立替弁済の事業は不知、その余は争う。

同(五)の事実は不知(被告小久保および被告石井)。代位の通知がなされた事実は否認、その余の事実は不知(被告伊藤)。

同(六)は争う。

第三  証拠関係<略>

理由

一請求原因(一)(二)の事実は当事者間に争いがなく、右事実に<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  訴外大谷木子之作ら一五名は、昭和四五年三月頃、その共有に係る埼玉県入間郡毛呂山町大字旭台一四一番保安林八反六畝一歩ほか七筆の土地を売却するについて、その仲介を被告伊藤および同石井に依頼した。

2  右仲介依頼に際し、訴外大谷木ら地主(以下単に地主という。)は、地主の手取額を坪当り一万二五〇〇円プラス一五〇万円(一人当り一〇万円)と指値し、右金額を超える金額で売却できたときは、その超過額全部を被告伊藤らにおいて取得することを承諾し、その旨記載した売渡承諾書(乙第一号証)を被告伊藤に交付した。

3  その当時右土地が防風保安林に指定されていたため、被告伊藤および同石井は、地主の依頼に基づき、右防風保安林指定解除を得るため、利害関係のある近隣地主の書面による承諾を得て、埼玉県当局に指定解除の申請手続をしたが、これにつき毛呂山町議会議長であつた被告小久保が被告伊藤らの依頼により直接間接の援助を与えた。

4  被告伊藤および同石井は、右防風保安林指定解除の手続と並行して買主を探し求め、不動産仲介業者の訴外扶桑実業から原告を紹介されて、原告の代理人訴外中沢留蔵、買主側の仲介人たる訴外扶桑実業の鈴木恒央および訴外山田幸明と取引条件について接衝した結果、代金額を坪当り一万五〇〇〇円、総額一億一七一二万円とすることで交渉が成立し、同年五月一日、原告側から代表役員岡野正道および右中沢、地主側からその代表として訴外大谷木子之作ら五名が出席して、右鈴木、山田、被告伊藤および同石井立会のもとに売買契約が締結され、同日手付金として三〇〇〇万円が原告から地主に支払われた。

5  同月六日、地主から被告伊藤に対して仲介手数料の内金名下に一〇〇〇万円が支払われ、同被告は、右金員の中から五〇〇万円を被告小久保に、一四〇万円を被告石井に、二〇〇万円を前記鈴木および山田に分配した。

他方、原告からは仲介手数料として二〇〇万円が訴外扶桑実業に支払われ、同訴外会社は、その中から五〇万円を被告伊藤に、二五万円を前記訴外山田に支払つた。

6  その後原告が右買受土地の宅地造成工事に着手したところ、埼玉県当局から防風保安林指定の解除手続が未了であることを理由とする中止命令が出され、このため原告が地主に対して前記売買契約の解除を申入れるなどの事態となつたが、その過程で地主が坪当り一万二五〇〇円の指値をしていたことおよび地主から被告伊藤に一〇〇〇万円の仲介手数料が支払われていたことが原告側に明らかになり、これらを踏まえて原告と地主との再交渉が行われた結果、あらためて代金額を地主の指値どおり坪当り一万二五〇〇円とする売買契約を締結し直すこととなり、同年八月二〇日売買契約書(甲第九号証)が取り交わされた。右売買契約においては、実測の結果目的地の筆数が一筆減つて七筆となり、総坪数も六九〇〇坪とされ、したがつて代金総額は八六二五万円となつた。そして、既に地主が受領ずみの三〇〇〇万円は右代金の一部に充当されることとされたが、訴外大谷木らが、被告伊藤に支払つた一〇〇〇万円の返還を求めるのは困難であり、さりとて地主の手取額が右一〇〇〇万円を差引いた七六二五万円となつては、地主の内部において紛糾を生じるおそれが大きい旨の窮状を原告に訴えた結果、被告伊藤に対する一〇〇〇万円の返還請求の問題は原告において処理するものとして、原告は売買代金八六二五万円のほかに一〇〇〇万円を地主に支払い、被告伊藤に対しては、地主の承諾を得てその被告伊藤に対する一〇〇〇万円の不当利得返還請求権を代位行使することで合意ができ、原告は、残代金五六二五万円のほかに一〇〇〇万円を地主に支払い、地主は右代位行使を承諾した。

二原告は、被告らが前記各金員を法律上の原因なくして利得した旨主張するので、順次検討する。

(一)  まず原告は、訴外大谷木ら地主と被告伊藤との間に仲介手数料支払に関する契約が存在しないとして、被告らの前記金員受領が法律上の原因を欠く旨主張するが、被告らが地主から右金員を受領したのは地主との間の前記2の契約に基づくものであるから、原告の右主張は失当である。

(二)  次に、被告ら各本人尋問の結果によれば、被告らは、前記売買契約のなされた昭和四五年当時、いずれも宅地建物取引業者としての免許を受けていなかつたことが明らかである。

そこで、宅地建物取引業の免許を受けない者がなした不動産取引の仲介契約の効力および報酬請求権の成否について考えるに、昭和四六年法律第一一〇号による改正前の宅地建物取引業法三条一項によれば、宅地建物取引業を営もうとする者は建設大臣または都道府県知事の免許を受けなければならないものとされ、右免許を受けないで宅地建物取引業を営むことは禁止され(同法一二条一項)、違反者は、三年以下の懲役もしくは三〇万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科するものと規定されていた(同法二四条)。このように同法宅地建物取引業について免許制度を実施し、無免許業者による仲介等の取引行為を刑罰による制裁をもつて強く禁止したのは、宅地建物取引業者の事業に対して必要な規制を行なうことにより、その業務の適正な運営と宅地建物取引の公正を確保し、もつて購入者等の利益の保護と宅地建物の利用の促進を図るにある(同法一条)ものと解される。しかし、無免許で宅地建物取引業を営むことに対して刑罰の制裁があることと、無免許業者のなす仲介契約の私法上の効力の有無とは自ら区別されるべき問題であり、無免許営業が直ちに反道徳な行為としての社会の倫理的非難を受ける性質のものではないこと、取引業者の仲介行為によつて契約締結上の利益を受けた不動産取引の当事者に無免許を理由とする仲介契約の無効の主張を許すときは、著しく当事者間の信義公平に反する結果を招く場合があり得ることおよび同法の前記のような立法趣旨を考えあわせると、無免許業者のなす個々の仲介契約の私法上の効力を否定して、これを実体法上無効とするまでの理由はないというべきであり、したがつて、無免許の取引業者が仲介行為をした場合であつても、それによる仲介委託者に対する報酬請求権の成立を妨げないものと解すべきである。もつとも、右報酬請求権の裁判上の行使を認めるとすれば、それは、国が一方において無免許営業を刑罰の制裁をもつて禁止しながら、他面において無免許営業による利益の取得に力をなすことになつて矛盾たるを免れないし、いわゆるクリーンハンドの原則にも反することとなるから、無免許業者がその報酬権を裁判所の力をかりて実現することは許されないものと解する余地があるけれども、実体法上右報酬請求権の成立を妨げないのであるから、裁判外において仲介委託者が任意に報酬を支払うことは許され、業者がこれを受領しても不当利得とはならないものというべきである。

したがつて、被告らが宅地建物取引業者としての免許を受けていないことを理由として、不当利得の成立をいう原告の主張は失当である。

(三)  次に、前記改正前の宅地建物取引業法一七条一項によれば、宅地建物取引業者が宅地または建物の売買、交換または貸借の代理または媒介に関して受けることのできる報酬の額は、建設大臣の定めるところによるものとされ、同条二項によれば宅地建物取引業者は前項の額をこえて報酬を受けてはならないものと規定されている。そして、右規定はいわゆる効力規定と解されるから、建設大臣の定める額をこえる報酬契約を結んでも、右契約は右額をこえる部分については無効であると解するのが相当であり(最判昭和四五・二・二六民集二四・二・一〇四)、このことは、無免許業者が仲介委託者との間で報酬契約を締結した場合においても妥当するものというべきである。

ところで、本件のように、不動産仲介業者に不動産売却の仲介を委託するに際し、売主が一定の価額を指定(指値)して、右価額以上の金額で売却できたときには、その超過部分全部を仲介業者において取得することを認める旨の契約が売主と仲介業者との間で締結される場合があるが、このような契約の効力については、宅地建物取引業法の報酬の制限に関する前記規定との関係で問題の存するところであり、右制限規定を潜脱するものとして、少なくとも前記制限報酬額をこえる部分につき、これを無効であるとする見解もあり得る。

しかし、仮に右見解に従うとしても、本件の場合、さきに認定したとおり、被告伊藤および同石井は、訴外大谷木らの委任に基づき、前記土地について防風保安林指定解除の申請手続を行ない、被告小久保は被告伊藤らの依頼によりこれについて直接間接の援助を与えたのであつて、訴外大谷木ら地主が前記指値を超える金額を被告伊藤らにおいて取得することを認めた前記2の契約は、同被告らが右受任事務を処理するについて要した費用ならびにこれに対する報酬をも右指値超過額の範囲内で支払う旨の約旨であつたものと推認されなくはなく、したがつて被告らが、右契約に基づき、訴外大谷木ら地主から前記制限報酬額を超える金員の支払を受けたことをもつて、直ちに法律上の原因を欠く不当利得と認めることはできないものというべきである。

三以上の次第で、被告らが前記各金員の支払を受けたことが地主との関係で法律上の原因を欠くとの原告の主張は理由がないから、地主らが被告らに対して不当利得返還請求権を有することを前提とし、右請求権の代位行使として、被告らに対して前記各金員の支払を求める原告の本訴請求は、その前提を欠くことに帰し、その余の点について判断を加えるまでもなく、失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (魚住庸夫)

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